乾燥から生体を守る皮膚

頬に指を当てる女性

生物は水が無くては生きることができません。生物は海で生まれ進化し、陸に上がりましたが、その後も体内に、海の環境を持ち続けています。新生児は身体の約75%が、子供は約70%が、成人は約65%、老人でも体の約50%が水で出来ていて、この体内の水分を保持することが、肌の大きな役割なのです。

では水とはどういうものでしょう。物質には、気体、液体、固体の三態がありますが、水は地球上で水蒸気、水、氷の三態をとって存在できるという点で、極めて珍しい物質と言えます。また、水は多くの物質を溶解させることができる、大変優れた溶媒です。水は内部における電荷の分布が不均等なために、電気双極子をもつ極性分子なので、極性物質をよく溶かします。水と物質との相互作用を水和と言うのですが、イオンや生体高分子の水和は、生体反応に重要な役割を果たしており、水は生体には欠かせないものなのです。

このような大切な水分を保持し、乾燥から身を守るのが皮膚の役割で、角層は特にすぐれた機能を持っています。表面にはトリグリセリド、ワックス、脂肪酸などから成る皮脂があり、水分の蒸発を防いでいます。表皮の顆粒細胞は約2週間かけて、角層細胞に分化し、これが20層くらい積み重なって薄い膜となり、体表面を包みます。この角層細胞はおよそ1日1層のペースで出来、最上層からは古い細胞が垢として剥がれ落ち、常に新しい防御膜となるのです。この角層細胞には、天然保湿因子という水溶性成分が存在します。これはタンパク質が角層に移行した後に、タンパク分解酵素により分解されて生成されたアミノ酸類です。この水溶性アミノ酸は、角化が正常に行われなければできないといわれています。

もう一つ、体内の水分を保持するのに重要な役割を果たしているのが細胞間脂質です。この細胞間脂質は主にセラミドとコレステロールとコレステリルエステルで構成されていて、水分の蒸散やアミノ酸の流出を防いでいます。そして、この細胞間脂質は、親水基同士、疏水基同士が集まり、層状となったラメラ構造を作っていて、これにより、水は通り抜けできないようになっているのです。この大切なラメラ構造を作るためには、コーニファイドエンベロープという角層細胞を包む膜の成熟が必要で、これが未熟だとラメラ構造ができず、皮膚のバリア機能が低下するということも分かってきて、これを改善する化粧品もあります。

このように天然保湿因子、細胞間脂質、皮脂などによって、体内の水分は保持されているのですが、そのどれか1つでも満たされていないと、皮膚のバリア機能は損なわれ、水分は体外へ流出し、外部からは異物が侵入しやすくなってしまうのです。バリア機構は角層だけではなく、顆粒層にも存在し、水やイオンの流出、アレルゲンの侵入を防いでいます。

また、角層には水が存在し、この水には角層成分と結合している、結合水が存在していて、これが角層に柔軟性を与えています。皮膚には適度な潤いが保たれていないと、ひび割れや痒み、痛みなど様々な皮膚の異常が現れます。皮膚が乾燥すると、炎症を起こす物質が表皮の最上層に蓄積するためちょっとした刺激でも、炎症を起こしやすくなります。これは肌が乾燥するとランゲルハンス細胞が増加し、刺激に敏感になるからだともいわれています。

乾燥した状態が増えている現代の暮らしにおいては、皮膚の保湿はとても大切なことだと言えるでしょう。

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